研究案内

基礎研究

死亡時画像診断(Ai)の法医学への応用に関する研究

教死亡時画像診断(Autopsy imaging:Ai)は、CTなどの画像診断装置を用いて、死亡後の身体内部の状態を非侵襲的に評価する手法であり、近年、法医学分野において重要な役割を果たしています。従来、死因究明の中心は司法解剖でしたが、Aiの導入により、解剖所見を補完し、より多角的で精度の高い評価が可能となりました。
Aiの最大の利点は、身体内部の構造を客観的かつ記録性の高い形で把握できる点にあります。骨折や臓器損傷、出血、空気塞栓などは、CT画像によって明瞭に可視化され、解剖前の段階で死因に関する重要な手がかりを得ることができます。また、画像は後から繰り返し検討できるため、第三者による検証や教育・研究への活用にも適しています。
本分野では、Ai所見と解剖所見を詳細に対比し、それぞれの長所と限界を明らかにする研究を行っています。Aiで把握しやすい所見、解剖で初めて確認できる所見を整理することで、両者を効果的に組み合わせた死因究明の体系化を目指しています。さらに、現場情報や臨床経過を含めた総合評価により、単独の手法では見落とされがちな死因や死亡機序の解明にも取り組んでいます。
また、Aiは外傷死や突然死のみならず、医療関連死や災害時の多数遺体対応においても有用性が期待されています。非侵襲的に全身を評価できる特性は、迅速性と客観性が求められる場面で大きな強みとなります。本分野では、これらの実践を通じて、死亡時画像診断を法医学における標準的手法の一つとして確立することを目指し、研究を進めています。

予防法医学に関する研究

予防法医学は、法医学的死因究明で得られた知見を社会に還元し、同様の事故や突然死を未然に防ぐことを目的とする研究分野です。従来の法医学が、個々の死亡事例の原因解明に重点を置いてきたのに対し、予防法医学は、複数事例の共通点や背景要因を分析し、再発防止につなげる点に特徴があります。
中留真人准教授は、鳥取県内で発生した死亡事例を対象に、司法解剖、死亡時画像診断(Ai)、現場調査、臨床経過などの情報を統合し、死亡に至る過程を多角的に検討する研究を行っています。個々の事例を丁寧に分析するだけでなく、類似事例を横断的に比較することで、事故や突然死の背景にある構造的な要因の抽出を試みています。
本研究では、交通事故、転倒・転落事故、入浴関連死、火災死など、日常生活の中で起こりうる死亡事例を対象とし、死亡機序と環境要因との関連を検討しています。Aiを用いた客観的な画像評価と解剖所見を組み合わせることで、外表や臨床情報だけでは見落とされがちなリスク因子の解明を目指しています。さらに、中留准教授は、法医学的知見を行政、医療、地域社会へ還元することを重視しています。研究成果を基にした注意喚起や提言は、事故防止対策や医療安全の向上に資する可能性があります。法医学の役割を「死因を明らかにすること」から「死を減らすこと」へと拡張する予防法医学は、地域医療と公衆衛生をつなぐ重要な橋渡しとなります。
本研究は、地方大学ならではの地域密着型法医学の実践を基盤とし、死亡事例から得られた教訓を社会全体の安全向上に生かすことを目的としています。予防法医学の確立は、亡くなった方の死を無駄にしないという法医学の本質的使命に応える取り組みであり、今後も継続的な研究が求められる分野です。

日本人における頭蓋骨副縫合発生の遺伝的要因に関する研究

中留真人准教授は、Ai技術を利用した頭蓋骨副縫合の検出と解析を行い、骨形成に影響を及ぼすことが示唆されているSIRT1遺伝子、PER3遺伝子、GDF5遺伝子内のバリアントとの関連性について追究している。
Aiによる解析とDNA分析を利用した研究は極めてまれであり、このように複数の骨形成関連遺伝子について包括的に解析することで、頭蓋骨副縫合とDNAバリアントとの関連性を追究し、副縫合発生の機序等明らかにすることができれば、法医学的個人識別への応用(人種間識別含む)も可能と考えている。また小児の場合、頭蓋骨副縫合と頭蓋骨骨折との鑑別診断が重要であることから、遺伝子レベルで鑑別できれば法医学領域で取り扱う児童虐待や頭部外傷事例の鑑別診断にも応用可能と思われる。

歯科CT画像を用いた個人識別に関する法医学的研究

個人識別および身元確認は、法医学・歯科法医学における中核的な課題であり、身元不明死体や災害時の多数遺体対応(DVI)など、社会的要請の高い場面で重要な役割を果たしています。歯科所見は、生前の治療内容や歯列・顎骨形態に強い個体差があることから、長年にわたり信頼性の高い識別手法として用いられてきました。
藤本秀子歯科医師の専門性を背景に、歯科法医学および身元確認に関する実務と研究の双方に携わってきました。本研究では、その業績の延長として、歯科CT画像を用いた個人識別の有用性と法医学的意義について検討しています。歯科CTは、歯や顎骨、補綴物、歯科治療痕を三次元的に詳細評価できる点が特徴であり、従来の二次元画像や肉眼所見に比べ、客観性と記録性に優れています。
研究では、死亡後に撮影された歯科CT画像と、生前の歯科診療記録や画像資料との対比を通じて、個人識別に有効な所見の抽出と整理を行っています。また、観察者間の評価のばらつきや再現性といった、法医学的証拠として重要な要素についても検討し、実務に耐えうる識別手法の確立を目指しています。さらに、医科CT画像や解剖所見と歯科所見を統合的に評価することで、より確実な身元確認につながるアプローチを探究しています。
歯科CT画像を用いた個人識別は、非侵襲的で迅速に情報を取得できる点から、災害時や解剖が困難な事例において特に有用です。本研究は、これまでの歯科法医学分野における実務経験と研究成果を基盤に、歯科医師が法医学に果たす役割を明確化し、医科・歯科連携による身元確認体制の発展に寄与することを目的としています。歯科画像診断の知見を法医学に応用することで、社会的信頼性の高い個人識別の実現に貢献することを目指しています。

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